「老後不安」を減らす生き方……「医師とじょうずに付き合う」秘策

アメリカ屈指のがんセンターで働く元がん患者の医師・上野直人さんに学ぶ

テキサス大学MDアンダーソンがんセンター乳腺腫瘍内科部門教授 上野直人さん

[プロフィール]
米国内科専門医と腫瘍内科専門医の資格をもつ。専門は乳がん。日本ではチーム医療推進者として知られる。
【チーム医療紹介サイト】http://www.teamoncology.com/
【上野先生フェイスブック】http://www.facebook.com/ntueno
【上野先生ツイッター】http://twitter.com/teamoncology


患者は、医者に何を解決してほしいかを、「具体的に」整理することが大事

著書『一流患者と三流患者』や『最高の医療を受けるための患者学』を面白く読み、お話を聞く機会がどこかであればと考えていた私たち取材班。今回、米国在住の上野さんに「近いうちに、日本に帰国される機会は?」とダメ元でメールを送ると、幸いにもちょうど日本に戻ってくる用事があるとのこと。さっそく正式な取材を申し込み、お話を伺うことになりました。

取材当日は、慶応病院内にある喫茶室で待ち合わせ。柔らかな光の中から現れたその姿には、多くの患者さんと接し、ご自身もがんと向き合った人だからこその、優しさと強さが感じられました。

挨拶もそこそこに、取材をスタート。外来にかかったとき、医者にどんな話をすればいいのか、じつはわかってない人が多いような気がするが……と、上野さんに話しかけると、いきなりストレートな回答が返ってきました。

「医者からしてみると、調子の悪い症状をなんとなく列挙されるより、重症度、どの症状が最も重いかを話してくれる人のほうが“賢い患者さん”だと思いますね。重症度がわからない形で6つも7つも症状を伝えてくれる患者さんには、『きょうはどの症状がもっとも重いですか?』と聞き直します。決して患者さんの気持ちを無視するわけではないのですが、1回の外来で、すべての問題点を完全に把握したり、治したりすることはとても難しいのです。医者はそこまで万能ではありません」

たしかに私たちは診察時、自分の症状を正確に医者に伝えようとして、体に起こっているつらい症状を、思いつくままにしゃべってしまうことが多いような気がします。
私たち患者側がよかれと思い、正しい診断をしてもらおうと思ってやっていることが、じつは医者側からしてみたら、あまり役に立っていないなんて、ちょっとショックですね。

「高齢になると、複数の病気を抱えていることも多いでしょう。症状が出始めた順番や、症状が慢性なのか、急性なのか、一時的に出るものなのか頻繁に出るものなのかなど、きちんと整理して教えてもらえると助かりますね。人によっては10年以上も続いている症状と、数日以内の症状を混同して話される人もいます。どういうときに改善するかといった症状の特徴もメモしておくと、診断時にとても役立ちます」


医者を信じられない患者は、不幸になる!?

医師の診断内容に対して、「この治療法は、どれくらいで効果が出てきますか?」、「この薬の副作用はどんなものですか?」、「なぜこの薬が必要なのですか?」、「ほかに考えられる病気はありませんか?」などと尋ねることができれば、治療内容についてより深い理解につながるでしょう。“賢い患者”として、覚えておいて損はない質問、と上野さんは言います。

「この治療法は、ガイドラインと一致していますか?」。
この質問も、覚えておいてよいかもしれません。一致していると医者から言われれば、それは「標準治療」であり、科学的根拠に基づいた観点で現在利用できる最良の治療法。もちろん、国内と国外ではガイドラインの内容も違うし、世界中で基準が一致しているわけではありませんが、あくまでも現時点、その国内で、もっとも信頼に足る治療法といえます、と上野さん。ガイドラインは、医師が治療法を決める際に、まずは最初に検討されるべきものだそうです。

「もしガイドラインには載っていない治療法だと言われたら、『それはどうしてですか?』と尋ねてください。ガイドラインでカバーできていないことはもちろんあるので、そういう判断もありえますが、その場合には、それなりの理由がきっとあるはずです。『ガイドラインと一致していますか?』という質問は、その患者が医療に対して真剣に向き合っていることを、診ている医師に伝えることにもなるのです」

日本の場合、“賢い患者”であろうと意識し過ぎて医者に向き合うと、医師との信頼関係が損なわれるのでは……という心配もあり、判断が難しい局面もあるかもしれません。
でも、医療情報について「エビデンス」(科学的根拠)が問われることも多くなってきた現在、自分の病気に対しての治療内容をしっかり理解することは、ますます重要になってきています。

「先生を疑っているから質問をしているのではない。自分の問題で、自分の健康に関心があるから質問をしているんだ、ということを丁寧に説明することが大事でしょうね。結局、患者が医師に不信感をもっていたら、納得感も満足感ももてず、治療成果も上がりにくくなる。科学的根拠がある話ではないですが、医師と患者の関係によって、治療成果は違ってくると思います」

 それに、医療って治療成果だけじゃないんですよね、と上野さんは最後に言います。

「私は進行がんの患者さんを中心に診ているので、最後はお亡くなりになってしまうことも多く、治療中の納得度や満足度も非常に重要です。また、慢性疾患の患者さんの場合も、その疾患がコントロールできたとしても完治しないことが多いし、コントロールしていても合併症になって、さらにつらい状態になることも……。医療はやはり、治療成果だけで語ることはできないように思うのです。すべてがスパッと、治る・治らないで白黒つけられるのであればラクですが、現実はそうではない。だからこそ、医者と患者はお互いに、しっかりとよいコミュニケーションを取り合う努力をしなければならないと思うのです」


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